どこからか、白い花弁が飛んでくる。
「お~満開だな」
大和が弾んだ声で言ったのに合わせ、足元に向けていた顔を上げると。
いつの間にか、今日から通う学校の校門前にたどり着いていた。
(偏差値も妥当で、家から近いって理由で選んだ学校だけど。……桜は綺麗だな)
校門から校舎までを明るく彩る桜並木を見ていれば、また、胸が軋んだ。
(俺は誰かと、この花を――)
記憶にない、けれど妙な既視感が頭をよぎるたび、目頭が熱くなってしまう。
それは桜だったり、何気ない景色だったり。
ふとした折りに俺の琴線に触れ、容易く重い心を乱す。
目の前で舞っていた桜の花びらに、そっと手を伸ばした時。
「あの!!」
「どこ中出身ですか!?」
「……………」
そのひとひらを手に掴む前に、突然声をかけられて動きを止める。
そちらを見れば、いるのは頬を赤く染めた、たくさんの女性生徒たち。
(あぁ、またか)
もう少しで昇降口というところで足止めされ、内心ため息をつく。
薄情な大和は他人のふりをして、さっさと校舎に入っていってしまった。
舌打ちしたいのを我慢し、俺はいつも通り笑顔を張り付けた。
「はじめまして」
さらに頬を紅潮させ、黄色い声をあげながら取り囲んでくる女子とは反対に、俺の心は凍てついていく。
外面の良さが磨かれれば磨かれるほど、俺の内心は冷たくささくれていく。
(もう、それでいいのかな)
あきらめにも似た気持ちで、ふと視線を遠くに逃がした、その時。
(…………え?)
白い、髪を見た。
――否、白に近い、不思議な色味の髪。
綺麗な長い髪の中には、本当に真白い髪も混ざっているが、それすらも神々しい。
そんな髪をゆらゆらと、こちらを誘うように揺らして校舎の中へ入っていく、一人の女子生徒。
「……っ、ごめん、ちょっと通して」
ドクドクと、耳にまで響く自分の鼓動を聞きながら、俺は慌てて女子生徒たちの輪から抜け出した。
しかし、昇降口に着いた時には、彼女の姿は既になく……。
(…………なんなんだ、今の)
勝手に震える唇を噛み締め、初めての感覚を目を閉じてやり過ごした。
その後、動揺を押し殺して臨んだ入学式が終わり、クラスへ移動する途中。