(死ぬなら、まどかのためにって、決めてたんだけどな……)


こんな最後は予想していなかった。


「……でも、まぁいっか」


彼のことを大切にしてくれている友人にも出会えたし。

彼の傍にずっといてくれそうな人もいるし。

あとは、彼が幸せになってくれるなら、私は満足だ。

安心して、この世界とさよならできる。


私がまどかの隣に居続けるなんて、最初から殺していた未来のはずだから。

見返りなんて、求めない。

彼からはもう、この身に余る十分すぎるほどのものをたくさんもらった。


『あんたが死んだら、それこそ、この世界になんの意味もないだろ!』


こんな時に、彼の必死な表情を思い出して、目に涙が滲む。

感覚のない唇を噛み締め、嗚咽を堪えた。


(だめなの、まどか)


パキパキと、何かが凍っていく音がする。


(自分が嫌いなの。気持ち悪いの。ずっとずっと、生きてることが怖くて仕方ないの)


だって、私は。



――死ぬために、生まれてきたんだから。



「けほっ」


息が詰まって、苦しさを紛らわそうと目を閉じる。


瞼の裏には、昔のまどかの優しい笑顔と、今のまどかのぶっきらぼうな笑顔、両方が浮かんできた。

小さく、笑みを作る。


(ほんとは、あなたがいなくて生きていけないのは私の方)


「…………まど、か」


(あなたに必要とされなければ、私には生きている意味がないの)


こうなって、思い知る。

彼の言葉一つで危篤状態なんて、なんだか情けなくて笑えるけれど。

それが私という存在なのだ。

今も昔も。
 


――私は、死ぬのだろうか。


そんなことを考えて意識を手放そうとした、その時。



「…………ま」



微かな物音と声を、耳が捉える。