まどかな氷姫(上)~元妻は、愛する元夫からの愛を拒絶したい~



『まど……かっ…』


恥ずかしくなるような水音を立て、何度も舌が絡み合う。

自分から焚きつけたくせに腰が砕け、まどかにしがみつくように立っているしかない。

必死に応えようとする私の様子を、まどかは艶めいた眼差しで見つめている。


(……っだめだ…)


助けを求めようかとも思ったが、こうなった夫は手が付けられないことを経験則から悟った私は、諦めて体の力を抜いた。

それを待ち構えていたかのごとく、私を軽々と抱き上げた彼は、病み上がりとは思えない足取りで、灯りのない暗い部屋に入っていく。

そして、先ほどまで自分が横になっていた床の上に私を下ろした。


『…っ、は…』


再び落ちてくる口づけの嵐に息も絶え絶えになっていると、彼はふと体を起こした。


(……まどか…?)


何を思ったのか、まどかは艶やかな唇を舐めてから、そのままぼんやりと私の手に自分の手を重ね、指を絡めてきた。

それから、聞き取れないほどの小さな声で、囁いた。


『珠緒さんが汚れる必要ない…』

『え?』


乱れた裾の間から、彼の細く長い指が滑り込んでくる。


『んっ』


くすぐったさに身をよじれば、さらに裾がはだけてしまう。

彼はむき出しになった私の足首を手に取ると、つま先に唇をそっと寄せ、伝うように口づけていく。


『やっ…』


だんだんと上がってくる彼の唇に、羞恥が煽られた。

時折、悪戯に吸われ、舌が這う。


『珠緒さんが、僕を綺麗にしてください』

『まどか…』


自分の足の間から、整った彼の顔が覗き、強い眼差しが私を見つめてきた。


「……ま」


まどかが変わろうと思ってくれたことが嬉しくて、胸がいっぱいになる。


『うん、うんっ。一緒に、なろう。まどかは汚くなんてないもの。私が綺麗だっていうのなら、まどかだって綺麗だもの』

『珠緒さん…』


幸せそうに頬を緩めたまどかの頭を、包み込むようにぎゅっと抱きしめる。

布も何もない肌に直接彼の柔らかい髪が触れ、またくすぐったくなった。


「………たま……」


彼がそのまま胸元に吸い付いてくる。


「や…まどか」


温かな舌が肌を滑り、冷たいはずの私の肌も熱をもつ。


「お、………きろ」

(起…きろ?何言ってるのまどか。こんなときに寝られるわけないでしょ)


刹那、敏感な場所を舐められ体が跳ねる。


「ん、ちょ、まどか、どこ舐めて……」


喘いだ瞬間。




「おおお起きろっ!!この馬鹿!!」

「いたっ!!!」


バシッと盛大な音とともに、後頭部に微かな痛みが走った。

開けていたはずの目を開ければ、そこには……。


「な、なななな、なめるとか……何言ってんだこの馬鹿!!」


顔を哀れなくらい真っ赤に染めた近衛円、その人がいた。