まどかな氷姫(上)~元妻は、愛する元夫からの愛を拒絶したい~




罪悪感とさらなる興奮で、いよいよ鼻からの出血量がピークに達し、ぼたぼたと彼の肌を汚し始めた。

さすがの彼も血相を変える。


「うわぁあー!お、おいおいおい!大丈夫か?」


彼は自分のシャツの袖を指で摘まんで、何のためらいもなく私の鼻に添えた。


「は、はいひょぶ」


私も両袖を引き伸ばし、片方で鼻を拭い、片方で彼に落ちた血を拭う。


「自分で拭くからいいって。あんたのシャツまで汚れるだろ」

「……へも」

「でもじゃねぇ」


ゴシゴシと血をふき取り続ける私を見て、彼がのっそりと後ろ腕を支えに上体を起こそうとする。


「取り敢えず、頼むから俺の上から降りろ」

「あ」


切実な声音でそう言われて初めて、彼の上に跨り続けていたことを思い出した。


(そりゃ、覆いかぶさってれば鼻血も落ちるわけだわ。ほんとに頭に血が上ってたのね)


のっそりと、彼の上から腰を上げて降りようとする。丁度その時。


ガラガラ、と。なんの前触れもなく病室の扉が開いた。

そして、


「あ、お邪魔しました」


ひょっこりと顔を出し、私たちの様子を見たその人物は、そのまま気まずそうに眼を逸らし、取って返して立ち去ろうとした。

いまだ私の下にいるまどかが、大慌てで声を上げた。


「待て待て!どこ行く大和!」

「引き留めてくれなくていい。大丈夫だ。俺は偏見なんて持たない。例えお前が、下にいることが好きな血まみれプレイ専門の変態でも。……大丈夫さ。俺らの友情は不滅だ」


ふっと大人びた微笑みを浮かべ、握りこぶしに親指だけを立てると、彼は再び颯爽と出ていこうとする。


「待てって言ってるだろ!お前、絶対勘違いしてる!」

「安心しろ。俺はこの目で見たものだけを信じている」

「ふざけんな!ますます不安しかねぇわ!」