腕から落とすに等しい勢いで下ろしたブチャの存在さえ忘れ、俺は一気に駆け出した。

力を失くし、地面へと倒れこもうとするその体を、すんでのところで捕まえる。


「たま!!…たまおっ!!」


頭の中が真っ白で、酸素がうまく入ってこない。


腕に抱いた彼女の体が、冷たすぎて。


震える手で拭っても拭っても、なお溢れだして彼女の顔を赤く染め続ける冷たい血も。


ぼんやりとこちらを見上げる金色の瞳を、重たそうな瞼が少しずつ隠していくのも。



――どうしてこんなにも、既視感があるのだろう。



「珠緒…、いやだっ、珠緒っ…!!」



彼女の体を強く強く、掻き抱く。

自分の目から、大粒の涙が止めどなく零れていくのを感じながら。

真新しい制服のシャツが、彼女の血で染まるのも厭わずに。


(君が)


ガクガクと肩を震わせ、壊れたように彼女の名前を呼ぶ。


(君が、死んだら)


胸の奥底からせり上がってきた、断末魔にも似た叫びが口を突いた。


「珠緒さんっ!!!」



――君が死んだら、何のために生きればいい?



頭の中に浮かび上がってきた言葉に従うように、腕の中の体をきつく抱きしめる。


「……僕を…、独りにしないで……」


奥歯を噛み締め、嗚咽を堪える。


血まみれの彼女に触れ、あたかも氷に触れたように感覚を失くしていく体と一緒に、心までも鈍麻していくようだった。

恐怖や絶望に塗りつぶされ、何も考えられなくなった。


通りかかった誰かが呼んでくれたと思しき救急車が来るまで、その場でただ、血塗れた彼女を抱きしめ続けていた。