人身御供(ひとみごくう)?私が?』


里で一番の権力者が、皺だらけの顔に笑みを浮かべて言った言葉に、私は何の感情もなく返した。


『あぁ、手っ取り早い厄介払いってこと。……いいわよ。なってあげようじゃない』


皮肉を込めて言い放った。


『でも、いいのかしら。【人身御供】って、読んで字のごとく、神に、人の身を捧げなければならないのではない?私みたいな化け物なんかを捧げて、祟りでも起こらなきゃいいけど』


嘲りと共に放った言葉は、しかし、目の前の人物には何の効果もなくて。


『………言い方を変えて誤魔化さないで。正直に言えばいいじゃない。得体のしれない化け物は、しきたり通り、とっとと里のために死ねって』


誰もいなくなった暗く寒々しい部屋の中、小さな呟きは誰の耳にも入らなかった。



そして、儀式の日も近づいたある日。

私がいつもの(みそぎ)に向かおうとしていたところ、ある人間と出会ったのだ。


『神様に呪われた氷の里にようこそ。悪いことは言わないわ。早くこの里を出ていきなさい。……贄は私一人で十分なんだから』


真っ白な雪の降りしきる、寒い寒い月の夜。

彼は、――まどかは、ぽつりと川べりに立っていた。


何もかもどうでもよくて、ただただ終わりを待っていた私の目の前に、突然姿を見せた彼。

今思えば、彼は私の心の底の願望を知っていたのかもしれなかった。




――そうよ。だって、私。……私は。




――本当は、ずっと、独りが怖かった。