(え!?なになに??)


「…………」


幾ら周りに人がいないからって、そんな、大胆な――。


「ふがっ」


鼻を摘ままれた。

ぎゅっと。


「はにふるの」

「…………ブサイクな顔だな」


(ま、ど、か、さ~ん?)


嘲るような冷笑に、私の頭の中の血管がブチッと音を立てる。

入学式での出来事をまだ根に持っているんでしょうけど、それとこれとは話が別だ。


乙女の鼻を摘まむなんて蛮行を、断じて許すわけにはいかない。

私が目を細めて、威圧感たっぷりに彼を見つめ返すと。


「…っ」


彼はたじろいだように体を揺らし、その顔が少し赤くなる。

でも、彼は手を離さない。


そして、あろうことか、訝しそうに首を傾げた。


「………お前の肌、冷たいよな」

「…………」


鼻を摘ままれたまま、彼を見る。

初対面で手首を握った時の事を思い出しているのだろうか。


(……あの時なんて、特に冷たかったでしょうに)


それを覚えていて、よくもまた、私に触れようなんて思えたものだ。

こっそり感心していると、彼はようやく鼻から手を離し、


「………え」


労わるように撫でた。

私を見下ろす視線は冷たいまま。

けれど、その指先は、とても優しく鼻先を滑る。


ちぐはぐなその様子に、胸が苦しくなって唇を噛む。


(まどか…、やっぱり、そこにいるのね)


今世ではもう、想いを通わせることはないけれど。

せめて。


「近衛さん」

「っ」


はっとしたまどかの指を、手で静かに払う。


「女子の肌に気安く触れないでください。周りから勘違いされても文句は言えませんよ」


生意気な微笑みを向け、髪を後ろへ流して格好をつける。


「俺の名前……」


ポツリと耳に届いた呟きに、彼の横を通り過ぎながら答えた。


「近衛 円さんでしょ?入学式で新入生代表をされていたので、知ってます」

「………」