「ただいま、」

今日も、暗い声が玄関に静かに溶けていく。

「あら、未来、おかえり‼︎」

だけど今日も、溶ける前に拾われる。

出迎えてくれたお母さんは、何やらニコニコとお皿を持って立っていた。

「パンケーキを焼いたから、手洗ったら一緒に食べよう」

「…いや、ちょっと寝るよ」

お母さんは不思議そうに首を傾げて、

「そう?じゃあ、後で部屋に持っていくわね」

手を洗いに行こうと扉を開ける。

すると、お父さんが帰ってきていた。

「おかえり、未来」

蹴られた部分を隠すように、手を当てて答える。

「…ただいま」

お父さんは不思議そうにしてから、微笑んでリビングへと戻っていった。

お母さんとお父さんは、とても優しい。

穏やかで、いつも微笑んでいる。

だから近所の人にはいつも親切にしてもらっていたし、仲が良かった。

その二人の子供が、私、未来。

別に特段可愛いというわけでも、優しいというわけでもない。

しかし、それが逆に悪目立ちしていたのかも知れない。

私は、他のクラスメイトについていくのに精一杯で、うざがられたり、悪口を叩かれていた。

もちろんそんなことは知っていたし、でもだからと言って誰とも喋らなくなったら、

孤立してしまう。ただの小さな教室、しかし、私たちにとっては大事な人間関係だった。

クラスメイトの高原さん。クラスの中心人物でお隣さん。

昔はそれなりに仲の良かった幼馴染だけれど、いつの間にか疎遠になってしまった。

そして、このいじめの主犯。今は、敵。

「未来ー?」

お母さんがリビングから声を響かせる。

「今行くよ」

扉を開けた。

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