ある年のクリスマスイブのことだった。


一人の赤い服を着た老人が、華やかな街の中とは真逆の街外れを、大きな荷物を背負った上、荷車を引きながら歩いていた。

雪が降りしきる中、両手は塞がっているため傘も差さず、長く白いヒゲも濡れ、赤い衣装も雪で白くなっていた。

もう夜中になる。街外れとはいえ誰もいない。


不意に、老人の衣装の裾が軽く引っ張られた。

そして、

「おじいちゃん、どうしたの?」

そう、幼い子供の声がした。

老人はゆっくりと道の端に荷車を止め、荷物を荷車に降ろして振り返る。

「…おや…。」

そこには、こんな雪の中だというのに傘も無く、暖かい上着もなく崩れそうな靴にボロを着た、幼い少年の姿があり、心配そうにこちらを見ている。

「…こんな夜に、坊やはどうしたんだい?今夜はクリスマスだろう?」

老人は荷車の荷物の、暖かそうな上着を一枚、少年に掛けてやりながら穏やかにそう問いかけた。

「『クリスマス』なんて、しらないよ?母さんがまだ家にかえらないんだ。だからここに来てみたんだ。」

聞いた老人は静かに首を振る。

「そうか、クリスマスを知らないのかい…。」

そしてまた少年に聞いた。

「お母さん、帰っているかもしれないよ。雪が降っているからね。」

すると少年は何でも無いことのように言った。

「おそいのは、いつもなんだ。」

「…いつも……」

「おじいちゃんは、どうしたの?」

少年は自分のことよりも老人が気になるらしく、気にした様子もなくまた最初の質問をする。

「…私の友達がみんな風邪を引いてね、今年は私一人で贈り物を届けるんだよ。だから今日は一人でこの荷物なんだ。」

すると少年は目を丸くする。

「…これ、ぜんぶがおくりもの!?」

「そうだよ。」

何か考え込んでいる少年の頭を、そっと老人は撫でながら呟いた。

「…すまなかったね…今まで君の分を見落としてしまっていて…」

すると少年は元気よく老人に言った。

「てつだうよ!」

「なんだって?」

今度驚いたのは老人の方だった。

「母さんが出かける前にくれたパン、取っておいたんだ。今日はそれを食べてきたから、力しごとができるよ!」

少年の言葉に老人は迷っているようだったが、やがて頷いた。

「…お願いしよう。共にいてくれる相手がいたほうが、きっと私も楽しいからね。」