「あいつ、ナイフ携帯してる連中とつるんでるんだって」
そう言って笑う男子生徒を見て、小笹さんが「やめなよー」と止めに入る。
先生はまだ来ていない。
その時だった。
原くんが男子生徒の席に近づき、ガッと右足をふりかざした。
ドゴン。
音を立てて、原くんのかかとが机に着地する。
「そこ、俺の席なんだけど」
そうとは知らずにその席に腰をかけていたらしい男子生徒は、「ごめん」と小さくつぶやくとささっと逃げて行った。
周囲にざわめきが起こる。
一部の女子は、「原くんってちょっとカッコイイね」なんて言って騒いでいた。
原くん、こんな子じゃなかったんだけどな。
確かに今のは男子生徒がいけなかった。
でも、そんなこと言われることも、言うこともなかったはずなのに。
原くん、いつからこうなってしまったんだろう。
美術の時間の間は、ずっと原くんのことを考えていた。
遠目に見えた彼の版画作品は、とても繊細で綺麗だった。

