美術室に入ると、学級委員の小笹さんと、彼女と仲がいい丸山さんが声をかけてきた。
「亜季ちゃん、今日は体調大丈夫?」
亜季ちゃん、とは私のことだ。
心因性の胃痛に慢性的に悩まされている私は、『身体が弱くてよく保健室にいる生徒』として認識されている。
二年生になってから休みがちになった私に気を遣ってなのか、彼女たちはよく声をかけてくれる。
「うん。今日は調子いいみたい」
「そっか、良かった」
私の返事を聞いて、小笹さんが笑顔になる。
二人とは同じ班なので、並んで席についた。
今日は版画の授業の続きをするらしい。
「あ、原が来た! 彫刻刀隠せ! 切られるぞ」
クラスの中心にいる男子(名前は覚えていない)がそう叫ぶのが聞こえて、はっと顔を上げた。
入口には、無表情の原くんが突っ立っている。

