「あ、金魚すくい」
小さい頃、お祭りですくって帰って、一時期飼っていたことがある。
金魚を育てるのは想像以上に難しくって、一週間ほど飼ったころに金魚がぷかぷかと浮いてきて、お姉ちゃんとふたりで泣いたっけ。
そのあと金魚は庭に埋めた。
りんご飴を齧りながら、金魚すくいの前で立ち止まる。
それを見た原くんが、「ほしいの?」と聞いてきた。
「可愛いけど、お世話できないからなあ」
ぽつりとこぼすと、原くんは「じゃあ、だーめ」と言った。
大きな水槽の中で、たくさんの金魚が泳いでいる。
赤に近い色のもの、綺麗な橙色をしたもの、黒色が目立つもの。
色とりどりの金魚たちは、これから誰かに貰われていくのだろうか。
「育てきれないなら、持って帰っちゃだめなんだよ、ね?」
そう言って私を見下ろす原くんの瞳は、『不良の原くん』だった。
冷たくて光のない、どこか遠くを見ているような目。
どうしたらいいのか分からなくって、黙り込む私。
周りの喧騒が、やたらとうるさく聞こえた。

