「やばい」
原くんは私の目の前まで近寄ると、そう言った。
目と目が合う。
原くんのこげ茶色の瞳が光って綺麗だ。
「高屋の浴衣、すげー可愛い。可愛すぎ。ずるい」
会った瞬間にそんなことを言われたものだから、心臓がきゅうっと縮こまった。
どきどきする。
原くんに手を握られて、私の心拍数はますます上昇した。
手汗かいちゃいそう。
「……原くんの私服も、カッコいいよ」
そう口にする声が震える。
原くんはぱあっと顔を明るくさせて、もっと強い力で私の手をぎゅっと握りしめた。
「やばい。ちょー嬉しい」
手をぎゅっと繋いだまま、ふたり並んで花火大会の会場の方へと歩く。
付き合いはじめて最初の日、原くんと寄り道した河川敷だ。
毎日登下校で通る場所だけど、いつもとは全然違う。
朝曇っていたからか、いつもより少しだけ低い気温。
降り注ぐ夕陽。
空はオレンジと紫、それから薄い青色に染まっていて、水辺の匂いがする。
これは、今年の夏の匂い。
原くんといる時の匂い。
浴衣姿の人たちが、続々と会場へと向かって歩いている。
友達同士だったり、恋人同士だったり。
家族連れを見ると昔を思い出して、少しだけ胸がちくりと痛んだ。

