「亜季」
自分の名前を呼んでいると分かって、はっとした。
おばあちゃんはもう一度「亜季」と呼んでから、続けた。
「好きな人が出来たらなぁ、追いかけるんやぞ?」
そう聞こえてきて、無言でこくりと頷いた。
そうだ。
お母さんは、好きな人を追いかけただけ。
後悔のないように追いかけただけ。
お母さんには、お母さんの人生があるんだから。
それでも何も言わずに出て行ったことや、置いて行かれたことはムカつくけど。
彼女は、彼女の恋を守った。それだけ。
「おばあちゃん、ありがとう」
私はこの街で、私の恋を守る。
原くんとずっと一緒にいたい。
原くんとの恋を守りたい。
母親が子どもを置いて行く気持ちは分からないけれど、好きな人を追いかけたい気持ちは分かる気がする。
この時の私は、ずっとこの街で原くんと生きていけると思い込んでいた。
私たちを邪魔するものなんて、何もないと思っていた。
神様、どうか彼の肩の荷物が降りますように。
私と彼がいつまでも一緒にいられますように。
ただそう願っていた。

