うしろと正面

 上を見れば、煌びやかなシャンデリア。
 床を覆うのは、いかにも高価そうな真紅の絨毯。

 外観からいだいた勝手な期待をまったく裏切らないほどに、屋敷の中は美しかった。

 広すぎるせいか、どことなく、寂しさが漂っている気はするけれど。


「あれ……?」

 弥生が、スマホを見ながら眉をひそめた。

「ここ、電波悪いね。ネット繋がらないよ」

「まじ?」

 各々スマホを取り出し、確認する。

 わたしのスマホも、しっかり圏外になっていた。

 というか、時間もおかしい。
 画面がバグったように、表示が変になっている。

 こんなこと初めてだ。


「いつからだろ」

「歩いてたときは、繋がってたと思うけど」

「霧のせい?」

「さぁ……」

 晋哉くんは踵を返す。

「車に戻って誰もいなかったら、叔父さん電話かけてくるだろうし、繋がる場所にいたほうがいい」

 外に出ようと扉に手をかけた晋哉くんは、そのままぴたりと動きを止めた。

「どした?」

 龍真くんが怪訝そうに声をかける。

「開かない」

「は?」

 視線が、一斉に扉へと集まった。

「おい、冗談言っていい状況じゃないだろ」

「ほんとだって」

 龍真くんが扉を押す。
 たちまち、表情が曇った。

 ほらな、と晋哉くんは肩をすくめる。

「なんで開かないの……?」

 千尋が怯えた声で言う。

「それに、ずっと待ってるのに誰も出てこないし……」

 ガタガタと、扉の取っ手を掴んで揺らしていた弘毅くんは、小さく舌打ちをする。

「駄目だ。仕方ない、ちょっと中を見て回ろう」

「本気で言ってる?」

「他にどうしようもないだろ。待ってても来ねーんだから」

 それはそうだけど、さっきから続いているこの不可解な状況が、足を重くする。

「こんな立派な屋敷だから、きっと金持ちの爺さんが住んでんだよ。耳が遠くて聞こえてないか、もしくは急病で倒れてるとか、そんな感じだろ」

 言うや否や、弘毅くんは屋敷の奥へ向かって歩き出してしまう。

「ま、待ってよ、弘ちゃん!」

 千尋が止めるけれど、弘毅くんは「平気平気」と言いながら進んでいく。

「ホラー映画で一番最初に殺されるタイプのやつじゃん……」

 ぼそっと呟いた晋哉くんを、千尋はジロリと睨む。

「変なこと言わないで」

「ご、ごめん……」

 見かねた様子の龍真くんが、口を開いた。

「オレも行ってくる。みんなここで待ってな」

「だから、別行動はやめようってば……」

 そうしている間も、弘毅くんの姿は遠くなっていく。


「はぁ……」

 誰からともなく、ため息をついた。

 結局、みんなで急いで弘毅くんのあとを追いかける。