うしろと正面

 弘毅くんは足下を確かめながら、建物に近づいていく。

「……あれ、近くで見ると案外立派な家だな」

「えぇ?」

「お前らも、こっち来てみろよ」

 手招きする弘毅くんの元へ、わたしたちは半信半疑で近づいた。

 距離が縮まるにつれ霧の影響も少なくなって、よりはっきりしてきた建物は、たしかに豪邸だった。

 大きな窓がずらりと並ぶ洋風の外観は、外国のお城……とは言わないまでも、それに近いものを彷彿させる。

 綺麗で、お洒落で、おまけにかわいい。

 一度でいいから、わたしもこんな家に住んでみたい。


「さっき撮った写真と、だいぶ違うんだけど」

 千尋は、スマホの画面と目の前の屋敷を見比べて、困惑している。

「霧のせいだろ」

 弘毅くんはさほど気にする様子もなく、玄関扉に近づいた。

「誰かいるなら、助けてもらおうぜ。霧がやむまで……あれだ、雨宿り的なやつ」

 迷わず、呼び鈴を鳴らしてしまう。

 そのまま待つこと、数分――。


「……留守か?」

「かなぁ」

 一歩前に出た千尋が、おもむろに扉の取っ手を掴む。

 すると、扉はなんの抵抗もなく開いた。

「おい――」

 中を覗き込む千尋を、弘毅くんは止めようとする。

「明かりついてるよ」
「え」

 控えめに開けた扉の隙間から、みんなで中を覗いてみる。

 豪華なエントランスホールも、その先に続く階段や廊下も、淡い光の照明で照らされていた。

「すみませーん!」

 晋哉くんの声が響いた。

 すぐに、しん、と静まりかえる。


「どうする?」

「玄関開いてて、明かりもついてるなら、誰かしらいる……よな?」

「でも、勝手に入るのはまずいんじゃ……」

「入り口で待ってる分にはいいんじゃない? 誰か来たら、事情を説明すればいいよ」

 何もやましいことはしてないのだから、と弥生は言う。


「んじゃ、おじゃましまーす……」

 弘毅くんを先頭に、わたしたちはぞろぞろと、屋敷の中に足を踏み入れる。

 背後で、玄関扉が音を立てて閉じた。