うしろと正面

 いったん戻ろうと、引き返し始めるわたしたち。

 霧は収まるどころか、どんどん濃さを増しているような気がする。

「方向、こっちで合ってるよな?」

「えっ。弘ちゃん、わかってて進んでるんじゃないの?」

「いや、たぶん合ってると思うけど。こう霧が深いんじゃ、自信なくなってくるっていうか」

 弘毅くんの言うことも、もっともだった。

 霧が深い上、あたりは木ばかりで、目印になりそうなものもない。


 遭難――

 嫌な単語が頭をよぎり、わたしは慌てて首を振る。

 大丈夫。

 別荘は近くにあるんだし、ここは真冬の雪山でもないんだから。

 それに、今の世の中、何かあってもスマホさえあれば、だいたいのことはどうにか――……

「――あれ?」

 視界の端に何かをとらえた気がして、わたしは目を凝らした。

「ね、見てあそこ。なんか看板みたいなのあるよ」

 指さすと、弘毅くんは怪訝そうに言う。

「『クマ注意』とかじゃねーだろうな」

「ちょ、やめてよ……」

 みんなで近寄ってみる。

「……文字が書いてあるけど、読めないね」

 古びたボロボロの小さな板の上に、かろうじて文字らしきものが確認できるけれど、その内容までは読み取れない。

 龍真くんは顔を上げる。

「道が続いてる。もしかして、歩き回ってるうちに別荘についたのか?」

 その可能性はある。

「行ってみよう」


 けもの道のように狭かった道は、次第に広がり、歩きやすくなっていった。

 しばらく進んでいくと、前方にぼんやりと、大きな建物が見えてくる。

「おっ、ついたじゃん」

 弘毅くんは明るい声を上げるけれど、晋哉くんがすぐに否定する。

「ここ、うちの別荘じゃないよ」

「え?」

 晋哉くんは、訝しげに目の前の建物を見上げる。

「こんな家、近くにあったかなぁ」

 ――カシャ。

 隣でシャッター音が鳴る。

 見れば、千尋が建物に向けてスマホを構えていた。

 弘毅くんは、呆れたように言う。

「何してんだ」

「迷子になりかけてるし、念のため現在地の写真を撮っておこうと思って」

「やめとけって。変なの映ったらどうすんだ」

 そう言いたくなる気持ちもわかるくらいに、全容が見えるようになった建物はボロボロだった。