うしろと正面

 いつからだろう。

 気づけば、あたりに深い霧が立ち込めていた。

 ぼんやりとした白いもやのせいで視界が悪い。

 よく言えば幻想的、悪く言えば薄気味悪さを感じる。


「山の天気は変わりやすいって聞くけど……」

 弥生が不安そうに窓の外を見る。

「叔父さん、迷子になってないかな……出ていってから、もうだいぶたつよ」

 スマホを見ると、もうすぐ1時間が経過しようとしていた。

 30分と言っていたのに、倍近くかかっている。

 晋哉くんは、ドアに手を伸ばす。

「近くまで来てるだろうし、ぼくちょっと外を見てくるよ」

「大丈夫? 危なくない?」

「晋哉、電話してみれば? 運転してたら出られないかもしれないけど」

「あぁ、そだね」

 その手があったか、と晋哉くんは頷き、自身のスマホを取り出す。

 ボタンを押し、スマホを耳に当てるのとほぼ同時に、運転席のほうで小さなバイブ音が鳴った。

 運転席の真後ろに座っていた千尋は、手を伸ばし、着信中のスマホを拾い上げる。

「置いていったのか……」

 晋哉くんは、ため息をつきながら、電話を切った。

「やっぱ見てくる」
「オレも行くよ」「オレも」
「えっ」

 外に出ようとする男子3人に、千尋はぎょっとした。

「わたしたちを置いていくの?」

 弘毅くんは、視線だけこちらに向ける。

「入れ違いになるかもしれないし、誰かは残ってたほうがいいだろ。叔父さん戻ってきたら、メッセ送って知らせてくれ」

 わたしは千尋と弥生と顔を見合わせる。

「どうする……?」

「んー……」

 こんな霧の中を歩くのは怖い。

 でも、来たこともない山奥で、車内に女子3人だけ取り残される――それもまた、結構心細い。

 話し合った結果、行くならみんなで行こうと意見がまとまった。

 でも、晋哉くんはあまり気乗りしないようだった。

「ほんとに行くの? キミらは車で待ってたほうが――」
「いい。行く」

 わたしたちが意見を変えないとわかると、晋哉くんはようやく諦めた。