うしろと正面

 待ち遠しかった夏休みは、あっという間に訪れた。

 大量の宿題とか、塾の予定とか。
 押し寄せてきた面倒なものは、いったんすべて忘れることにして、わたしたちは休暇を楽しむべく、山奥の別荘に向かった。

 晋哉くんの叔父さんが運転する車は、順調に進んでいく。

 炎天にじりじりと焼かれ、熱気を放つアスファルトの道も、いつしか緑に囲まれた涼しげな山道に変わっていた。


「早くつかないかなー」

 車内に流れる最近流行りの曲に合わせ、鼻歌を歌いながら、千尋が窓の外を見る。

 その横で、わたしは睡魔と闘っていた。

 遠足前夜の小学生かってくらい、昨日は全然眠れなかった。

 忘れ物しないように、持っていくものを何度もチェックして、ベッドに入ってからもソワソワして寝つけなくて。

 それで、起きたら時間ぎりぎりなんだもの。

 なんとか待ち合わせには間に合ったからいいけれど、朝からどっと疲れてしまった。

 道行く車の揺れも絶妙に心地いいし、気を抜いた瞬間、眠ってしまいそう。


「……おっと」

 ふいに車はスピードを緩め、停車した。

 一番後ろの席に座っていた弘毅くんが、前方を確認するように顔を出す。

「どうしたんすか?」

「タイヤがパンクしてしまったようだ」

「えーっ」

 叔父さんは、あっけらかんと笑った。

 助手席の晋哉くんは、顔を曇らせる。

「別荘、まだ先じゃなかった?」

「うん。でも近道があるから、歩いていけばそんなに遠くないんだ。まぁ、大きな荷物も積んでるし、向こうに置いてある車を持ってくるよ。それに乗り換えよう。30分くらいで戻ると思う。少し待っててくれ」


 叔父さんは道の端のほうに車を寄せて再び停めると、外に出ていった。

 気をつけて、と叔父さんを送り出した晋哉くんは、助手席からこちらを見る。

「ごめんね、みんな」

「気にすんなって。こういうのも醍醐味だろ」

「そうそう。お菓子でも食べて待ってよう」

 申し訳なさそうな晋哉くんを励まし、わたしたちは叔父さんが戻ってくるまでの間、車内でのんびり待つことにした。