ふいに顔を上げた龍真くんが、こっちを見た。

 目が合うと、龍真くんはニッと笑って軽く手を振ってきた。

 わたしは、慌てて手を振り返そうとする。

 けれど、ほんの少し遅かった。
 わたしが手を振り返す前にゲームが再開され、龍真くんは視線を戻し、再びボールを追いかけはじめた。


「……」

 上げかけの、行き場を失った手を、するすると机の上へ戻す。

 そんなわたしを見て、千尋は眉を下げた。

「じれったいなぁ。早く付き合えばいいのに」

「簡単に言わないでよ」

 デザートのパイナップルにピックを刺し、話を制止するかのように千尋の口元に運ぶ。

 千尋はパイナップルを食べたけれど、話は終わらなかった。

「龍真くん、奈乃にだけ優しいじゃん。両想いじゃん」

「違ったらどうするの」

 わたしだって、これでも15年生きてきた。

 好きは好きでも、いろいろな『好き』があることくらい知ってるし、実際、目の前にその一例がいる。

 お互いが好きで、でも、恋愛感情ではなく友愛が成り立っている千尋と弘毅くん。

 こういうパターンもあるとわかった今、見切り発車で踏み出すのは……

 無理だ。
 絶対無理。


 千尋は、小さなため息をつく。

「龍真くんモテるんだから。のんびりしてると、誰かに取られちゃうかもよ」

「わかってるよぉ」

 大げさでもなんでもなく、龍真くんはモテる。

 芸能人に劣らない整った顔立ちに加え、成績優秀、スポーツ万能。

 むしろ、なんで彼女がいないのか不思議なくらいだった。

「2人の場合、やっぱタイミングかなー」

 手持ち無沙汰の千尋は、最近切りそろえたばかりのショートボブの髪を、指でくるくるともてあそぶ。

「まぁ、もうすぐ夏休みだし。海に花火に肝試し。チャンスなんていくらでも作れるんだから、頑張りなさいよ」

「うぅー……」

「なになに、なんの話?」