二人で廊下に出るとすぐに数人の女中に囲まれた。ルディアの体は濡れたドレスにより冷えてしまっており、湯浴みをさせるために準備していたらしい。
「ライアス様……私の、父と弟は……っ」
「安心しろ、すでに手を回し保護してある。……それよりも」
ライアスの言葉により心底安心し、ホッと息を吐いたルディアの頬をライアスは優しく包み、上へ向かせた。
「君の方が心配だ……唇が青く、震えているぞ。体が冷えて大事になっては大変だ。湯浴みをして温まってくるといい」
「で、でも……」
ルディアはライアスと今、離れてしまうのが不安だった。彼がまたどこかへ行ってしまう気がして。そんなルディアの不安を汲み取ったのか安心させるようにライアスは微笑んだ。
「……大丈夫だ、ルディア。もし、湯浴みし終えたら、俺の部屋へおいで」
至近距離で優しく微笑まれた後でライアスはルディアの耳元に唇を寄せ「その時は、俺が君の全てをもらう」と、色をこめて低く囁かれた。
その意味がわからないほどルディアは子供ではなく、恥ずかしさで顔を真っ赤にした彼女を満足そうに眺めてからライアスはルディアを女中達に引き渡した。
湯浴みが終わり、ルディアは薄い下着とカーディガンを着て、女中から案内された部屋へと入室した。
そこは元々女王が使っていたという部屋で、執務室と寝室を兼ねている。
女王が崩御してからこの部屋は使われていないはずだが、綺麗に清掃されており、すぐにでも使用できる状態だった。
促されるまま室内にきたルディアは沈んだ顔をしており、ライアスが心配げにルディアの顔を覗き込んだ。ルディアは、近づいてきたライアスの顔をすかさず小さな手で優しく包みこんだ。
「……ルディア?」
ルディアは形のいい銀色の眉を寄せながら、ライアスの顔をまじまじと覗き込んだり、首、肩、腕に両手と、まるでライアスが本当にここに存在しているかを確かめるかのように触れていく。
ライアスは、ルディアの小さく細い手が自分の体の隅々を触れていくのを嬉しそうに眺めていたが、彼女の肩が小さく揺れているのを見て、泣いている事に気が付いた。
「ルディア……どうした?」
「ふっ、うっ、……ッ、ど、どうしたじゃありません……っ! ライアス様がっ、せ、戦死されたと聞いて……私が、どれだけ……っ!!」
ルディアは、貴族令嬢として感情を出す事ははしたない事だと教わっている。どんな時でも常に冷静に、感情を露わに怒るなど以ての外。
しかし、先ほどの怒涛の出来事とライアスに対して自覚した恋心や、別離による悲哀による感情がない混ぜになり、とても抑えきれなかった。
「ひとこと……無事だと、伝えてくれていたら……」
まるで、ライアスを責めるような言い方になってしまい、言った瞬間心底自己嫌悪をした。そんな資格、自分にはないのに。

