心に余裕が少し出たルディアは、自身を拘束している騎士の力があまりにも弱いことに気がつく。非力な貴族令嬢のルディアでさえ、それなりに力を加えれば簡単に拘束が外れてしまいそうだ。
戸惑いながら騎士を見上げると少し困ったように微笑まれたあと、耳元に唇を寄せられ警戒心から体が強張る。
「……ルディア様、この様な事態になり、大変申し訳ございません。我が君が到着なさるまで、今しばらくの辛抱でございます」
よく見ると、その彼は近衛騎士団長で侯爵位を持つアルフレッド・ドノヴァンだった。
彼は元々下級貴族の末子だったが剣の腕をライアスに認められた事でその才能をさらに開花。北の激戦地への出兵も自ら志願したという。
その後、ライアスの右腕として十年間戦場を駆け続けたが、半年前にライアスが亡くなったという知らせを教皇庁を経由して皇宮へと届け、そのまま近衛騎士団長として侯爵位を叙爵した人物だった。
「その……ルディア様のお体に少しでも傷をつけますと私の首が飛ぶので、お辛い事は重々承知しておりますが、今しばらくこのままでいてくださると非常に助かります」
明るい金色の髪に深緑の目が印象的だが、よく見ると瞳には疲労の色が浮かび、日々の苦労が窺える。
そして、アルフレッドの言う『我が君』とは、一体誰なのか。
女王はすでに亡くなり、皇太子もルーベルトしかもういない。あとは王配だったルーベルトの父親ロジャースだが、この状況を招いているのがまさに彼らなのだ。
騎士達が『我が君』と呼び忠誠を誓うのは皇帝がいない今、あくまで皇族のみだ。
ルディアが騎士の言葉に違和感を拭えずにいると、ホールの扉がけたたましい音と共に開け放たれた。
ルーベルト達により異様な雰囲気になっていた宴は騒然となり、そちらへと視線が集まる。
開けられた扉の前には一人の長身の男が立っていた。エルグランド騎士団の団長クラスを表す肩の意匠と、黒を基調とした軍服を纏った偉丈夫。
男は迷いなく歩みを進め、片側で留められたマントがそれに合わせて翻る。一見すると黒で統一されている軍服だが、随所に金糸で描かれた刺繍は見事で、男の全体的な造形美を際立たせていた。
会場全体が突然現れた男の動向に釘付けになっている。
ロジャースとルーベルトは突然の闖入者にぽかんと口を開けて間抜け面をしていたが、無遠慮に近づいて来る男の顔を見るなり、顔面から表情が抜け落ちた。
「……、まさか、そんな。お前は……お前は、死んだはずだっ!」
男はロジャースとルーベルトをまるで視界に入っていないかのように無視して、真っ直ぐにルディアの前へと跪き、視線を合わせた。
「……、……ラ、イアス様……?」
一見冷酷に見える青灰色の目は、とろりとした蜂蜜がごとき甘さを含み、ルディアを見つめる。
「久しぶりだな、ルディア。……こんなに濡れて、可哀想に」
戸惑いながら騎士を見上げると少し困ったように微笑まれたあと、耳元に唇を寄せられ警戒心から体が強張る。
「……ルディア様、この様な事態になり、大変申し訳ございません。我が君が到着なさるまで、今しばらくの辛抱でございます」
よく見ると、その彼は近衛騎士団長で侯爵位を持つアルフレッド・ドノヴァンだった。
彼は元々下級貴族の末子だったが剣の腕をライアスに認められた事でその才能をさらに開花。北の激戦地への出兵も自ら志願したという。
その後、ライアスの右腕として十年間戦場を駆け続けたが、半年前にライアスが亡くなったという知らせを教皇庁を経由して皇宮へと届け、そのまま近衛騎士団長として侯爵位を叙爵した人物だった。
「その……ルディア様のお体に少しでも傷をつけますと私の首が飛ぶので、お辛い事は重々承知しておりますが、今しばらくこのままでいてくださると非常に助かります」
明るい金色の髪に深緑の目が印象的だが、よく見ると瞳には疲労の色が浮かび、日々の苦労が窺える。
そして、アルフレッドの言う『我が君』とは、一体誰なのか。
女王はすでに亡くなり、皇太子もルーベルトしかもういない。あとは王配だったルーベルトの父親ロジャースだが、この状況を招いているのがまさに彼らなのだ。
騎士達が『我が君』と呼び忠誠を誓うのは皇帝がいない今、あくまで皇族のみだ。
ルディアが騎士の言葉に違和感を拭えずにいると、ホールの扉がけたたましい音と共に開け放たれた。
ルーベルト達により異様な雰囲気になっていた宴は騒然となり、そちらへと視線が集まる。
開けられた扉の前には一人の長身の男が立っていた。エルグランド騎士団の団長クラスを表す肩の意匠と、黒を基調とした軍服を纏った偉丈夫。
男は迷いなく歩みを進め、片側で留められたマントがそれに合わせて翻る。一見すると黒で統一されている軍服だが、随所に金糸で描かれた刺繍は見事で、男の全体的な造形美を際立たせていた。
会場全体が突然現れた男の動向に釘付けになっている。
ロジャースとルーベルトは突然の闖入者にぽかんと口を開けて間抜け面をしていたが、無遠慮に近づいて来る男の顔を見るなり、顔面から表情が抜け落ちた。
「……、まさか、そんな。お前は……お前は、死んだはずだっ!」
男はロジャースとルーベルトをまるで視界に入っていないかのように無視して、真っ直ぐにルディアの前へと跪き、視線を合わせた。
「……、……ラ、イアス様……?」
一見冷酷に見える青灰色の目は、とろりとした蜂蜜がごとき甘さを含み、ルディアを見つめる。
「久しぶりだな、ルディア。……こんなに濡れて、可哀想に」

