ルディアの父グリーングラス公爵は流行病で体を壊し、ルディアの弟があと数ヶ月後に成人するのに合わせて爵位を譲り、引退する予定だった。
公爵はロジャースの傲慢な振る舞いに何度も苦言を呈しており、元々この機会に乗じて排除しようと画策していたのだろう。
「そんなっ! きっと……きっと、何かの間違いです」
「はっ、そんなの知った事かっ! 反逆を企てるものを父に持ち、息子を誑かそうとするとは……そなたは見た目によらず、とんでもない悪女だなルディアよ」
「悪女だなんて……ッ──きゃあっ!」
ルディアが困惑していると、ルーベルトの横にいたアリアーナから冷たいワインをかけられた。ポタポタと髪から滴り落ちていく雫を信じられない気持ちで眺める。
「あら、ごめんなさい。罪人の娘の分際で、口答えなんてなさるからつい手が滑ってしまって」
アリアーナは艶然と笑みを浮かべながら、空になったグラスをこちらへ傾けている。ルーベルトはアリアーナを叱る事なく、むしろ「よくやった」と言わんばかりにそのままアリアーナを抱きすくめ、軽く頭にキスをしていた。
ロジャースはワインにより濡れたルディアをみながらニヤニヤといやらしい笑いを浮かべ、彼女の身体を上から下まで舐め回すように眺めた。ロジャースのニヤついた笑みを見た瞬間、背筋がゾッとしたルディアは警戒心により身構える。
「……まぁ、しかし。そなたがこれまでのワシと息子に対する頑なな態度を改め、誠心誠意尽くすと誓うのならばそなただけは助けてやる」
「誠心誠意……? そのような事は、未来の夫にするものです。そして、私の婚姻はすでに神の御許に託されております。カルカロス卿にどうにか出来るものではありませんわ」
ルディアの言う『神の御許へ託された』というのは教皇庁を通しての誓約書で、絶対の効力を持つ。これを覆す事は基本不可能だ。
ルディアは震える声で、しかし毅然とした姿でロジャースを睨み返すが、彼は余裕のいやらしい笑みは消えず、ロジャースは顎肉を撫ぜながら「ん〜? ああ、そなたが誓いを立てた『王家に連なる、未婚の男子と婚姻を結ぶ』というものか」と、聞こえよがしにつぶやいた。
ロジャースのその不躾な視線だけで、ルディアは体中にナメクジが這っているような気持ち悪さを感じて身震いをした。
「ワシは事前に息子からそなたとの婚約を破棄する旨を聞いておった。慈悲深いワシは傷物になってしまったそなたに、今後婚姻を結びたいものは現れないのではと不憫に思ってなぁ……ワシとの婚姻届を、ひと月程前に教皇庁へ提出しておいたぞ」
「…………は、」
一度教皇庁へと提出された書類は、通ってしまえば覆らない。ひと月もあれば、いくら仕事が遅い教皇庁でもとっくに受理されてしまっている。
あまりの展開にルディアは頭がついて行かず、その場に立ち尽くしていた。
──私が……カルカロス卿の、妻? そんな……
耐え難い現実に放心状態のルディアを気にする事なく、ロジャースはつらつらと言葉を述べる。
「ワシは亡国の由緒ある王家に連なりし高貴な身分であり、女王陛下も崩御されて一年が経ったため喪も明けておる。そなたは、今後はワシの伴侶として公爵夫人の座をくれてやろう。ワシ好みに躾直してやるから感謝するがよい」
ロジャースの言葉に放心しているルディアを他所に、アリアーナは一気にテンションを上げてにこやかに微笑んだ。
「まぁっ……! お義父様はなんて慈悲深いのかしらっ! 身分だけで大した取り柄もなく、その上罪人の娘として連座されてもおかしくないお立場のルディア様を娶って差し上げるなんてっ! これ以上ない幸せですわ……ねぇ?」
公爵はロジャースの傲慢な振る舞いに何度も苦言を呈しており、元々この機会に乗じて排除しようと画策していたのだろう。
「そんなっ! きっと……きっと、何かの間違いです」
「はっ、そんなの知った事かっ! 反逆を企てるものを父に持ち、息子を誑かそうとするとは……そなたは見た目によらず、とんでもない悪女だなルディアよ」
「悪女だなんて……ッ──きゃあっ!」
ルディアが困惑していると、ルーベルトの横にいたアリアーナから冷たいワインをかけられた。ポタポタと髪から滴り落ちていく雫を信じられない気持ちで眺める。
「あら、ごめんなさい。罪人の娘の分際で、口答えなんてなさるからつい手が滑ってしまって」
アリアーナは艶然と笑みを浮かべながら、空になったグラスをこちらへ傾けている。ルーベルトはアリアーナを叱る事なく、むしろ「よくやった」と言わんばかりにそのままアリアーナを抱きすくめ、軽く頭にキスをしていた。
ロジャースはワインにより濡れたルディアをみながらニヤニヤといやらしい笑いを浮かべ、彼女の身体を上から下まで舐め回すように眺めた。ロジャースのニヤついた笑みを見た瞬間、背筋がゾッとしたルディアは警戒心により身構える。
「……まぁ、しかし。そなたがこれまでのワシと息子に対する頑なな態度を改め、誠心誠意尽くすと誓うのならばそなただけは助けてやる」
「誠心誠意……? そのような事は、未来の夫にするものです。そして、私の婚姻はすでに神の御許に託されております。カルカロス卿にどうにか出来るものではありませんわ」
ルディアの言う『神の御許へ託された』というのは教皇庁を通しての誓約書で、絶対の効力を持つ。これを覆す事は基本不可能だ。
ルディアは震える声で、しかし毅然とした姿でロジャースを睨み返すが、彼は余裕のいやらしい笑みは消えず、ロジャースは顎肉を撫ぜながら「ん〜? ああ、そなたが誓いを立てた『王家に連なる、未婚の男子と婚姻を結ぶ』というものか」と、聞こえよがしにつぶやいた。
ロジャースのその不躾な視線だけで、ルディアは体中にナメクジが這っているような気持ち悪さを感じて身震いをした。
「ワシは事前に息子からそなたとの婚約を破棄する旨を聞いておった。慈悲深いワシは傷物になってしまったそなたに、今後婚姻を結びたいものは現れないのではと不憫に思ってなぁ……ワシとの婚姻届を、ひと月程前に教皇庁へ提出しておいたぞ」
「…………は、」
一度教皇庁へと提出された書類は、通ってしまえば覆らない。ひと月もあれば、いくら仕事が遅い教皇庁でもとっくに受理されてしまっている。
あまりの展開にルディアは頭がついて行かず、その場に立ち尽くしていた。
──私が……カルカロス卿の、妻? そんな……
耐え難い現実に放心状態のルディアを気にする事なく、ロジャースはつらつらと言葉を述べる。
「ワシは亡国の由緒ある王家に連なりし高貴な身分であり、女王陛下も崩御されて一年が経ったため喪も明けておる。そなたは、今後はワシの伴侶として公爵夫人の座をくれてやろう。ワシ好みに躾直してやるから感謝するがよい」
ロジャースの言葉に放心しているルディアを他所に、アリアーナは一気にテンションを上げてにこやかに微笑んだ。
「まぁっ……! お義父様はなんて慈悲深いのかしらっ! 身分だけで大した取り柄もなく、その上罪人の娘として連座されてもおかしくないお立場のルディア様を娶って差し上げるなんてっ! これ以上ない幸せですわ……ねぇ?」

