「……ベースって、結構高い音も出るんだね」
立ったままノゾムくんのそばに歩み寄って、四本の弦をじっと眺める。
大事にしているのだろう。
ボディはピカピカに光っていて、磨いて手入れしているんだろうな、ということが簡単に想像出来た。
ノゾムくんが、ベースを愛おしそうに撫でながら言う。
「うん。ベースの音ってさ、ロックだと他の楽器の音に紛れて、あまり届かないことが多いんだよね。
でもそのベースの音が狂ってると、バンド自体がすごく下手に聴こえちゃうんだ。
音の要っていうか、芯の部分っていうか」
「とっても大事なポジションなんだね」
「うん。だから俺はこの楽器が好き」
ノゾムくんはそう言うと、またいつもの柔らかな顔で笑った。

