「この前の文化祭で、最初に弾いた曲だけど」



そう言ってノゾムくんは左手の指を構え、右手の人差し指でヴォンと弦を弾いた。

音が震える。



私はただ突っ立ったまま、その音に心を奪われてしまった。



ビートを刻む重低音が、時折高くなったり低く戻ったり、

それでもどこか一貫性のあるリズムを刻んで、私の心を揺さぶる。



この音が、私をどこか他の世界に連れてってしまうんじゃないかと、そんなことを本気で思った。



「あ、間違えた」



ノゾムくんは途中でつまずき、そこで演奏をとめる。

間違えたことを笑いに変えて、私に向けて言葉を放った。



「ね、俺たちだって、間違える。毎日毎日、間違いの連続なんだよ」



励ましてくれようとしたのだろうか。

私にはやっぱりノゾムくんって凄い人、としか思えないけれど。

それでも少しだけ身近な存在に感じて、自然と頬が緩んだ。