私はこんな自分が、本当に好きじゃない。
どうすれば直ちゃんみたいなしっかり者になれるんだろう。
直ちゃんみたいに慣れたら、どんなにいいことだろう。
小学校の頃から、毎日そんなことばかりを考えている。
「あれ、花音ちゃん?」
優しい声が届いて、私ははっと顔を上げた。
私のことを花音ちゃんと呼ぶ人は、世界にひとりしかいない。
振り返ると、大きな楽器ケースを背負ったノゾムくんがそこに立っていた。
「ええ? もしかして、また泣いてる!?」
ノゾムくんはそう言って駆け寄って私の隣に立つと、鞄からハンカチを取り出して、私に手渡した。
ベージュに黒のラインが入ったそれを受け取り、そっと目元に押し当てる。
ハンカチ持ってるなんて、私より女子力高いじゃん、なんて、この場に似合わないことを考えた。
「ありがと……。見なかったことにしてぇ……」
「……何かあったの?」
「……私が歌詞書いたら、迷惑かけちゃうかも……」
私は何があったかは言わずに、それだけ呟いた。

