梅田先生は私たちの方に近づくと、聖母のような優しい笑みを見せて私に質問した。



「平さんは、どうしてバンドの歌詞を引き受けようと思ったの?」



先生の何気ない質問に、私はじっと考え込む。



そういえば、どうしてだろう。

あの時は咄嗟にやると即答したけれど、あのライブを観ていなかったら引き受けていないかもしれないな、と思った。



「えっと、私ってドジで人に迷惑かけるし、おまけに泣き虫で怖がりでしょう?

 だから、何かやってみたいって思うことがあっても、遠慮しちゃうことが多くって、これまで何にも挑戦せずにいたんです」



頭の奥から、ライブで観た場面を引っ張り出す。

それはいつでも鮮明に、音を引き連れて私の記憶に浮かびあがってくるのだ。



想像の中で、ベースの重低音がヴォンと響いて踊りはじめた。



「……文化祭であのステージを見た時心が奪われたんです。

こんなに凄い曲を作って、素敵な演奏をして歌って。

世界でいちばん綺麗なものを見たって思って、あの日は気持ちが昂って、ちっとも眠れなかった」



そう、確かにあの日、私は世界でいちばん綺麗なものを見た。

ノゾムくんの作ったリズムたちは私の心にすっと浸透してきて、心を躍らせたのだ。