この景色を見ていると、泣きそうだったさっきまでの気持ちはどこかに吹き飛んでいった。
文化祭のテーマソングが頭の中を流れはじめて、私はそのフレーズを口ずさむ。
僕たちは限られた時間の中で、何かを成し遂げるんだ。
そんなダサい歌い出しを声に出して、楽器を弾くまねごとをする。
イントロの重低音を真似して、「ヴオン!」と叫びながら跳ねた。
その時だった。
「花音ちゃん?」
誰かに、呼びとめられた気がした。
ううん、気のせいじゃない。
今の行為を思い返すと全身がかぁっと熱くなって、私は動きをとめた。
怖くて振り返ることができない。
「花音ちゃん、だよね? さっき出て行ったのが見えたから」
優しい、男の子の声だった。
どくりと胸の奥が高鳴る。
それが恐怖心からなのか、羞恥心からなのか、それとも何か他の気持ちが理由なのか私には分からなかった。
恐る恐る、身体ごと振り返る。
そこにいたのは、今日あの会場で緑色のベースをかき鳴らしていた、曽根崎望という人だった。

