Hello,僕の初恋




「開始まであと一分です」




アナウンスが聞こえ、先ほどまでのバーゲンセール会場はとたんに凪のようになった。

暗くて何も見えないおかげで、私が泣きそうな顔をしているのも誰からも見えない。

緞帳の向こうで、ギィ、と楽器の弦が擦れるような音がした。

ギターの音だろうか。



「ね、ワクワクするね」



隣の人がそのまた隣の誰かに話しかける。

私はその声に救われて、泣きそうな気持ちと入れ替わるように、胸の奥がどきどきと高鳴るのを感じた。



こういうの、音楽で言うと何ビートっていうんだろう。

分からないけど、心の中をひゅんっと何かが走り抜けていきそうだ、と思った。

先ほどまでの泣きそうな気持ちはもうどこかに消えていて、何かを期待するようなワクワク感でいっぱいになっていた。

心臓がどくどくと速まる。



「じゅー、きゅう、はーち、なーな」



中央の辺りから数える声が聞こえて、それがどんどん大きくなる。

「さん」から「ゼロ」までは、私もいっしょになって叫んでいた。



緞帳がゆっくりと上がる。会場の中はまだ暗い。

辺りがしん、と静まり返った。





この瞬間の出来事を、私は何年経っても忘れないだろう。





こんなにドキドキして、ワクワクして、まるで魔法にかけられたみたいな気持ちになったのは初めてだった。