うちに着くと、ミカ先輩は奥にいたおばあちゃんに「こんにちはー!」と挨拶をして、私といっしょに階段を上った。
二階の一番西側、防音が施されたその一室に踏み入る。
おじいちゃんの音楽部屋はひんやりと冷たくて、西陽が射していた。
「うわぁ、すごい!」
ミカ先輩はひどく感動した様子で、きょろきょろと部屋を観察している。
西陽の届かない壁側の大きなガラスケース。
その中には四本のエレキベースと、一本のアコースティックベースが丁寧に飾られている。
「眩しいから、カーテン閉めますね」
電気のスイッチを付けて、部屋のカーテンを閉める。
カーテンの隙間からこぼれてくる夕陽が先輩の髪に当たって、きらきらと光った。
「すごい! ギブソンにリッケンバッカー! これ、ノゾムが見たら喜ぶよ」
ミカ先輩は呪文のような言葉を唱えているけれど、たぶんベースのブランド名か何かだろう。
壁にはおじいちゃんが音楽仲間と撮った写真もかけられていて、その中には外国人と撮ったものもあった。
「ねぇ、ノンちゃんのおじいちゃんって一体何者?」
「よく知らないけど……、私が小さい頃もよくライブに出かけてましたよ」
これだけ音楽に恵まれた環境にいたのに、自分はあまり興味がなかったんだろう。
ロックンロールを聴くこともなかった。
けれどもたったひとつの恋で、状況は一変するからおかしなものだ。