「すごい! ブラックコーヒーなら出来るよ!」
気づいたら、そう叫んでいた。
また目の前を、まっ白な空気が浮遊していく。
「アッくんは向こうで一年待つって言ってくれてるけど……、
東京って色んなライブハウスがあるだろうし、あれだけ歌が上手かったら他から声がかかるかもしれないし……」
真っ直ぐな瞳が、少しだけ下を向く。
けれどもその瞳に濁りはなくって、ただただ綺麗だった。
「……俺は音楽系の専門学校目指してるんだけど、親は反対してるしさ。
ショウも親父さんから、大学行けって言われてるって。
アイトは肉屋の跡継ぎだしさ。どうなるんだろうって、毎日不安だよ」
そうだったんだ。私は何も知らなかった。
カッコイイ、雲の上の存在だって。
彼らに出来ないことなんて何もなくって、自信のない私とは正反対の場所にいる人たちだって、そう思っていた。

