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その夜はふわふわと浮足立っていた。
非日常に紛れ込んだみたいで気分は高揚していたし、イルミネーションの輝く駅前通りを、スキップしながら歩いた。
飛んでしまえそうだとさえ思った。
しかしその高揚感は、玄関に置かれた自分のカバンを見た瞬間一気に消え失せ、私は現実に引き戻されてしまう。
そうだ。
私は今日美化委員の掃除を忘れていて遅刻したあげく、途中で逃げ出して帰ってしまったのだ。
部室に荷物を置いていることなど、すっかり忘れていた。
『直ちゃん、カバンありがとう! ごめんねえ!』
帰ってリビングのソファに腰を下ろすと、私は急いで直ちゃんにメッセージを送った。
本当に反省しているんだけど、カバンのことも忘れて音楽スタジオに行っていたなんて、
直ちゃんやみんなに申し訳なくてしょうがない。
『大丈夫よー。どうした? 何かあった?』
直ちゃんからの返事は数秒で返ってきた。
彼女はあまり筆まめな方ではないので、きっと心配してくれていたのだろう。
『ううん。大丈夫!』
私はそう送って、『大丈夫!』と書かれた猫のスタンプを送信した。
続いて『ありがとう』のスタンプを送信する。
本当は全然、大丈夫じゃないんだけど。
ノゾムくんたちといる時は、楽しくて楽しくて、普段の私の失敗なんて思い出さずにいられた。
でも、現実に戻れば私はやっぱり人に迷惑をかけている、『天然ノンちゃん』でしかないと思い知らされるのだ。

