「好きだよ」



耳元に息がかかり、文乃の声がすぐそばで聞こえる。



「…………えっ?」


顔が、熱い。


「どう?」


もとの距離になり、顔がはっきり見える位置になる。

真横では文乃が少し意地悪そうな笑みを浮かべ、ほんのり顔を赤くさせていた。


「……っ!」


きっと、僕の方が今、顔が赤いはず。



「ど、どう?じゃないから……っ!」

「ごめんごめん、変なことして」



そんな様子の文乃を見ていると、よく分からない感情がわいてくる。

怒りたいような、「好き」っ言われて嬉しいような……。



「……この話、終わりっ!早く帰ろう!」

「あ……っ」



文乃が突然慌ててそう言い、一人で歩き出した。

実は、少し考えてたことがあって。


文乃が赤くなろうが僕が赤くなろうが、“好き”って耳元で言おうと思っていたのだ。

まあいいや。恥ずかしいからまた今度で。


僕は慌てて、前を歩く文乃を追いかけた。