周囲に可憐な花々を添えられて眠っていたのは、予想外の人物だった。
 黒髪直毛の女。
 ロミオンがよく知っている人間。

 ロミオンは別の意味で冷や汗をかきはじめる。
 混乱によって体が硬直していた。

 すると、後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「あーらあーら、どうしたのかしらねー」

「……え、あ……ジュ、ジュリエラレッタ!」

「どうもこんばんは。夜遅くにどうされたのかしら、ロミオン様?」

 ジュリエラレッタは片方の口角を上げ、膝をつくロミオンを見下ろす。
 ロミオンは安堵の息を吐き、ジュリエラレッタの手を取った。

「き、君生きてたんだね。よかったよ。心配したんだ」

「そうね、私はぴんぴんしているわ」

 ジュリエラレッタはさも当然のように言い放つ。
 ロミオンは疑問を抱いた。伺うように、上目遣いで視線を送る。


「な、なんで……君は嘘をついたのか? ……死んだって言われて心臓が止まるかと思ったよ」

「ええ、ごめんなさいね」

 ジュリエラレッタは相変わらず素っ気無い。

「あ、ああ。それより…………え、いや、なんでもない」

「あら? ロミオン様は、どうしてこの棺の中に別の女が入ってるのかって聞きたいんじゃなくて?」

「そ、それも気になるけど……ま、まあそれを考えるのはうちに帰ってからにしよう。うん。早く一緒のベッドで眠って、君が本当に生きるんだっていう証明をくれないか? 僕の心は狂う寸前だったんだよ……君を失ったかと思って」


 ロミオンは芝居掛かったような臭さで、ジュリエラレッタの手の甲に口付けた。
 ジュリエラレッタはそれをさっと引き抜く。

 彼女のこめかみがヒクついていることにロミオンは気がついていない。