旅立ち

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ニジノジャク地方を治めるユラギ様のいるセセラギ城では、今日も平和が続いていた。少なくとも、表だけみればだが。

「我が娘は遅いなあ」

来訪者を待つ間、とても退屈なユラギ様は『衣装室その1』にいた。
、ちょうど伝令に来た部下の一人で遊んでいるところだ。
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ニジノジャク地方を治めるユラギ様のいるセセラギ城では、今日も平和が続いていた。少なくとも、表だけみればだが。

「我が娘は遅いなあ」

来訪者を待つ間、とても退屈なユラギ様は『衣装室その1』にいた。
、ちょうど伝令に来た部下の一人で遊んでいるところだ。


彼女はショートカットだが、常に個性的なウィッグを着けているため、遠くからでもよくわかる髪型だった。

「は、はあ……そのようですね」

おもちゃにされる《部下その一》の青年は、冷や汗のようなものを額に浮かべながら、小さく笑う。

「うーごーくーな。飾り紐が結べなーい」

「は、はあ……あの、しかしユラギ様……これは、その」

「ああ。我が娘の為に、私が見立てているドレスだが」

「……なぜわたくしに着せるんですかっ!」

「背格好が、このくらいになるはずだからな」

「そうではなくてですね!」

「似合うぞ。可愛い。仕立て屋だけに任せておいては、やはり不服だ」

「……そ、そうでもなくて、ですね!」

コルセットを締めてみろと言われて焦る青年が、廊下側の壁際に、じりじりと後退していると、扉がノックされる。ユラギ様が、入れ、というと、ムキムキの男が、室内配達用の台車を引いてやってきた。

「では、失礼します。お花、直接お持ちするようにとのことでしたので……」

「ああ、待っていたぞ、ソノ、下がれ」

すっと一礼して、男が下がると、部屋は静まった。

「……これまた、大きな花束ですが、どうされるのですか、ユラギ様」

「ウフフ、これは、食用ではないのだから、長生きしたいのなら、食うでないぞ、えーっと」

と、一旦言葉をきったユラギ様は、目の前の、着せ替え人形にされる青年の顔をじっと見つめ、必死に何かを思い出す。
少しして、ピンと来たように、彼に明るく微笑んだ。
「白い花咲く丘の向こうの谷だから……ムコウシロタニ!」

この国では、故郷の土地で綺麗(名付け親主観)なものから名前が付くことが多い。
もちろん、奥さんの名前や、旦那さんの名前だったりもするし、地にあるものや花から取ったりする。
たとえば、川のほとりだと、ホトリさんがやたら多いのだ。
ムコウシロタニ、と呼ばれた二十歳ほどの青年は、苦く曖昧な笑みを浮かべた。ちなみに名前はオカノムコタニだ。

「……残念ながら、違います」

「なに? ああー、まあ、いいや、今は、それよりシソが食べたい。ほら、今朝詰んだんだ。裏表しっかり洗ってきて皿に載せてくれ」

 今このタイミングでなぜシソが食べたくなるんだ?
と突っ込む者はこの場には誰もいない。
「シソだ。どーーっしてもシソが食べたい!今!今シソがすごぉーく食べたい!」