旅立ち

果物を取ってくれたときに、その近くの箱にテルが詰めたんだ。

たしか、手がふさがるーとか言って。

なんだなんだと思う間はなく車、というか、スタンバイしていた猫耳さん(ももひきさんだったかな)が走り出す。

(というか……もう、名前を聞きたい。人を覚えるのは、ただでさえ苦手なのだ)


――とにもかくにも、すごい勢いで走り出した台車に、びっくりして、ヒエエエエ、としか言えないキギに、テルさんはいいんですか! などと聞く暇などなかった。
とりあえず、後ろから、呆気に取られた声が響いていたのはわかった。


ギリギリに車ひとつの幅がある狭い道なので、どちらかが譲らないと衝突しかねない。だが、家が建つあたりから少し先までは若干敷地面積が広がる。つまり、テルがその辺りまで引き寄せたため、幅にやや余裕が出来たので、なんとか追い抜けたのだろう。

……というか、これは、本当に人類の走りなのだろうか。いや、人間はこんな速さで走れるのだろうか。
靴は燃えないの?
いや、裸足?
ここ足場あんまりよくないし、足に怪我とかしてたらどうしよう。
あ、消毒持ってくれば良かった。
今日は咄嗟に飛び出たからなー。

何もないや。あ、ポケットになら、何かあっかな。