旅立ち

にやりとちょび髭の口が動いた。

「やれ」

……の、二文字で、一斉に動き出す一方ともう一方。つまり、前方と後方。
前方は前に。
後方は残念ながら、後ろが深い森なのでそう、はいはいと進めなかった。車の構造的にも、バック運転は大変そうだ。


『指示は短く明確に、だ』

昔熟読した本の中で、勇者様――の、敵の大司祭様がそんなことを言っていた気がする。
……っていけない、今思い出している場合じゃないだろう。
えーと、どうしよう。
に、逃げるが勝ちってやつじゃないか……これ。


キギがそう、二人に告げようとしたとき、テルがキギの前に立った。

それから、ふところを探るのをやめた。ようやくアイテムを取り出す……かと思いきやその手には何もなかった。
テルは、その手を上に突き上げた。

……降参?
いや、降参も何もまだ――考えていると突然、テルのアルトくらいの声が「……いいぞ!」と叫んだ。



いや、何がだろう。
一瞬、くぐもった声みたいな間が感じられたが、なんだったのかはわからない。

じゃあ、さっきまで一生懸命探してたのは何だったんだろう。
……まさか、あの刀とか、言わないよね。
あれは、ちゃんと、箱にしまってたし。
でも、どの箱だったかな。……あ、思い出したぞ。