――とある、のどかな町の、のどかな昼間のことだった。

人気がやや少ない、少し山奥な場所に、そこそこの大きさの、木造の家が、ぽつんと建っていた。しかし、周りの木々や、草の繁りの勢いのせいか、あまり寂しさを感じさせない。
外観も昔、親戚や関係者が集まって建てたものだという、味わいのある、なかなかに立派なものだった。


そんな家の中では今、外にも(ほとんど誰もいないが)派手に聞こえる音を立てて、テーブルがひっくり返っていた。

それがひっくり返して使うものではないことは、家主も、住人も、当然わかっている。

ただ、本人たちは今、言い争いの最中であり、家具を雑に突き飛ばした本人に至っては、怒りで何も見えていないのだった。

幸いなのか何も乗らない、少しは軽めの木製テーブルは、とばっちりで床板に伏せられた。


「……だか、らっ」

机を突き飛ばした張本人の少女、キギは、ぜぇはぁと息を切らしながら、今、目の前のおばを睨み付けていた。


彼女もまた、怯まない。
同じように、小娘を睨み付けている。

少女は最後の忠告だ、とでもいうように息を吸い込んで、落ち着かない呼吸をこらえ、唸った。


「――自分の髪くらい切らせろってん、だ……!」