「久野先輩、無理してませんか?」


夏休み真っ只中。八月中旬。

今日、久野先輩は時間を割いて水族館に誘ってくれた。


「なに言ってんの。むしろ逆。気分転換にもなるし、なにより麦ちゃんと会うと元気出るからさ」

はじけるような笑顔ででそんなことをさらっと言ってしまう。

付き合う前も付き合ってからも、王子様に変わりはない。


「それならいいんですけど」

久野先輩はすごい。どんなに忙しくても、そんな表情は一切見せない。

いつだって涼しい顔をしてる。


「ほら麦ちゃん、イルカのショー始まっちゃうから急ごう」

自然に触れる手と手。手を繋ぐと、こんなに心があったかい気持ちになれるんだ。

イルカのショーを見るために、後ろの方の席を取った。