(……すごいなぁ、さすが洋一郎先生。剣持先生を『アッキー』って呼べるなんて)
福原の言葉に凛音は感心してしまう。
剣持家の御曹司でもある暁斗は院内で一目も二目も置かれる存在だ。他の医師と必要な交流はしているようだが、慣れ合うという雰囲気は全く無い。
しかし、福原は暁斗のが研修医の時に指導医だったらしく、その縁から親しくしているようだ。加えて人当たりの良くて優しい福原の人徳もあるのだろう。
「福原先生こそ、食堂に来るたびいちいち大声で呼ばないでもらえますか。それに、この後のカンファレンスの資料を事前に確認しておきたいので」
ゆっくり食べている暇は無いとばかりに暁斗は食べ続ける。
「そうやって、僕が言わなきゃ碌に昼ご飯も取らず仕事をしているじゃないか。忙しいのはわかるけど、食事はしっかり取った方がいいよ」
「昼食を取らなくたって死ぬわけじゃありませんから」
その発言は医者としてどうなの、と暁斗の言葉に心の中でツッコミながらも凛音は黙って弁当を食べ終える。
恐ろしく整った顔の血色が少し悪く見えるのは、確かに福原が言うように働き過ぎじゃ無いかと心配になるが口には出せない。
実際の所、凛音は彼の事が少し苦手だ。口数も少ないし、隙が無さそうな所が冷たく思えるせいかも知れない。まあ、自分がどう思っていようと彼にとってはどうでもいい事なのだが。



