(でも……暁斗さんの手、あったかいな)

 普段人の命を救うためメスを握り、医療機器をミリ単位で操作している彼の右手が、今は凛音の小さな手を包み込んでくれている。そう思うと無性に温かさを感じ、安心する。凛音は彼の手をそっと握り返す。

 暁斗はそれに気づくと凛音の歩調の合わせるように歩く速さを緩めてくれた。


 その後ふたりは手を繋いだまま、夕方まで銀座の街を散策した。新しい商業施設の煌びやかさに驚いたり、文具専門店の品ぞろえの多さに興奮したりと凛音にとって、初めて体験する事ばかりだった。
 そんな凛音を暁斗は静かに見守ってくれていた。

 傍から見たら、恋人か若い夫婦がデートしているように見えるかもしれない。そう思うと胸が甘く高鳴ってしまう。

(実際に夫婦ではあるんだけど……暁斗さんとこうしていると、ドキドキするけど楽しくて、ずっとこうしていたくなる。暁斗さんもリラックスしているから私も嬉しく感じるのかな)

 今日一日感じていた感情の理由を凛音は漠然と考えた。
 
 しかし、本当の理由を痛いほど知る事になるのはもう少ししてからになる。