離婚するはずが、心臓外科医にとろとろに溶かされました~契約夫婦は愛焦れる夜を重ねる~

 気づくと廊下の端とは言え、誰も通らないのを良いことにしゃがんだまま話込んでしまっていた。

「さて、水上さん、これありがとうございました」

 慌てて凛音は回収したポスターを手に立ち上がった。

(――え?)

 その瞬間、突然視界が真っ暗になり、体から一気に力が抜けた。手に持っていたポスターは再び凛音の手から全て滑り落ち、目が強制的に閉じられて膝から崩れ落ちる感覚がした。

 意識を失う刹那「剣持さん!?」という水上の慌てた声と、遠くから「凛音!!」と暁斗の叫ぶ声が同時に聞こえた気がした。



 凛音は暁斗の手が好きだ。

 特別手フェチでは無いと思っているけれど、彼の手だけは見ていると妙にドキドキする。大きくて筋張った手は、大人の魅力があって色気があると実は以前から思っていた。

 車を運転する時や、洗い物を手伝ってくれる時に捲るシャツの袖口から覗く手首のくるぶしも妙に男っぽくてこっそり見てしまう。

 無骨な印象の手なのに、外科医だけあって指先は繊細で器用だ。
 以前試しにキャベツの千切りをしてもらってみたら、トンカツ屋で出てくるキャベツより細くいものを短時間に仕上げてしまったし、小さすぎてつけるのに苦労する凛音のネックレスの留め具も彼にお願いすればワントライで完了する。