凛音の胸が嫌な予感で一杯になり、ドクドクと音を立て始める。

 思わず距離をとり、ふたりに見つからないように柱の陰に姿身を隠す。ふたりの様子は見えないが、声ははっきり聞くことが出来た。

「ねぇ暁斗、私の気持ち、わかってるんでしょう?」

 美咲の縋るような声が聞こえる。

「山海にいた時からずっと好きだったのよ。アメリカに行っても忘れる事なんて出来なかった。今更諦めるなんてできない」
「……ああ、寒川の気持ちは俺もわかっている」

 しばらくの沈黙の後、暁斗は落ち着いた声で答えた。

「だったら!私の頼みを聞いてくれたっていいでしょう」

 良く通る美咲の声がだれも居ない待合に響くと、暁斗の抑えた声が聞こえた。

「こっちにも事情があるんだ。少し、考えさせてくれ」
「暁斗……」

 美咲が更に言葉を続けようとしたタイミングで暁斗の医療用PHSがけたたましい音を立てる。
 隠れている凛音も思わずビクンとしてしまったが、彼らには気づかれなかったようだ。

「剣持だ。ああ、状況は?――わかった、それなら……」

 救急の受け入れだろうか、暁斗は淡々と指示を出しながら早足で階段に向かう。美咲も暁斗の後を追って行った。

「……」

 残された凛音はひとり柱の下で膝を抱えてうずくまる。

「やっぱり……」

 ――私はふたりの仲を引き裂いてしまっていたんだ。

 凛音はしばらくそのまま動けなかった。