雨降り王子は、触りたい。




周りは移動する生徒たちでざわついている。

…あれ、こんなときに限ってノート見当たらないんだけど……

机の中身を全部出しても、英語のノートだけがない。

ここかな…?

机にかけたリュックに手を伸ばした─────その時。



「……まだ?」



落ちてきたのは、温度のない、男の声。
私は思わずピタッと、動きを停止する。

遅かった…!

どうやら、アイツが来てしまったらしい。



手を宙に浮かべたまま、恐る恐る視線を上げると。

細い銀縁の丸眼鏡をかけた、金髪の男が、むすっと不機嫌そうな顔でこちらを見下ろしていた。