「離してくれないと松野くんのこと、二度と起こさないよ」

「じゃあまた先輩と同じ電車に乗っていいってことですか?それは嬉しいなぁ」

「えっ、どうしてそうなるの……!」

「俺、先輩ともっと仲良くなりたいんですよね。毎朝一緒に通学なんて、仲が深められるチャンスです」


 にこにこ笑っているけれど、裏がありそうで怖い。
 いったい何を企んでいるんだろう……?


「私は……松野くんと仲良くしたくない、です」

 つい、拒否の言葉を口にしてしまう。
 けれど後悔はない。

 松野くんの真意がわからない限り、踏み込むのは危険だと思ったからだ。


「……そうですか」
「うん、だから……」

「なおさら頑張らないといけないですね」
「……へ」


 間抜けな声が出てしまう。
 顔をあげると、松野くんは私を見つめていた。

 その瞳は真っ直ぐに私を捉えていて、なぜか囚われたような感覚がしてゾクッとした。


「先輩が俺を求めるぐらい、頑張らないと」

 松野くんは笑っていたけれど、その笑みはどこか怖い。
 嫌な予感がしたけれど、私はなにごともなく平和に終わることを願っていた。