空耳かな。そうであってほしい。
だって私の名前を呼ぶその声は、思い出したくない人の声に似ていたから。
「……はやく」
早く、行こう。
嫌なことを思い出してしまい、松野くんに会いたい気持ちが膨れ上がる。
はやく、はやく。
早く松野くんに会って、ドクンと心臓が嫌な音を立てて焦る気持ちを抑えたい。
家庭科室のある階は出店がなく、誰もいなくて安心する。
目的地はもうすぐそこだと、完全に油断したときだった。
「芽依ちゃん」
ひと通りのない廊下で、その声はよく耳に届いた。
全身が石のように固まって動かなくなる。



