忘れようと思っても彼の顔がチラついて本に全く集中できない。
「はぁー………」
どうしたものか。
いつもはこんなことすぐに忘れるのに。
「愛華、おっはよ〜!」
「あ、紅葉。おはよう。……朝から元気だね」
考え込んでいると後ろから背中をバシッと叩かれた。振り返ると、友達の渡辺紅葉(わたなべもみじ)が笑顔で立っている。
紅葉は私の前の席にドカッと座ると顔をずいっと近づけた。
「な、何よ………」
「ん〜?いや、愛華が本も読まずにぼーっとしてるから珍しいなと思って」
「え?本なら読んでるよ、ほら」
ギクッと効果音がつきそうなほど体が強ばったが気付かないフリをして本を見せつける。
「ふーん?」
紅葉は納得したのかしていないのか分からない返事をした。
なんなんだ、一体。
「つーかさ、今日、転校生が来るらしいよ」
紅葉はコソッと耳打ちするように小声で話す。
「転校生?こんな時期に?」



