涙は溢れていても、不思議と頭の中は冷静で。そんなことを考えていた。
ファーストキスなんて私はどうでもいいはずなのに、悔しくて、悲しくて仕方ない。
何度くちびるを拭っても、あの感触だけは残ったまま。
苦しい苦しい。
ちょうど五十嵐くんのこと、いい人だと思っていたのに台無しだよ。
「………ひっく、……う、うう……太陽……」
泣きながら走るのをやめて歩き出す。
涙は止まらない。こんな情けない姿、誰にも見られたくないよ。
でも、でもね。
私の頭の中には、太陽の顔が浮かんだ。
なんでかわからないけど太陽の顔を見たいと思ったんだ。
私は一緒に帰る約束をしていたことを思い出して、昇降口の方へ足を向けた。
なぐさめてなんて言わない。
だけど………気持ちがおさまるまでそばにいてほしい。
そんなことを思ったのは初めて。
そこまで私は太陽のことを心から許しているんだと実感した。



