昼休みになっても教室になかなか戻ってこないはるかちゃんからラインが
あって、俺は保健室に向かった。保健の先生は不在で、部屋の奥に見えた
閉め切ったカーテンを静かに開けるとはるかちゃんがベッドの上で体育座り
していた。


「どうしよう、坂本」


泣いてはいない。でも明らかに困惑の表情を浮かべてはるかちゃんは続けた。


「南が誰かのものになるなんて考えたことなかったの」


実は、南はさっき下級生から告白された時点で『好きな子がいるんだ』と
いって断っていた。
そのことをまず伝えてあげよう。そうすれば誤解もすぐに解けるってもん
だよ、うん。


「はるかちゃん、そのことだけど南はね」


「ごめん坂本、私しばらくの間立ち直れないかも」


俺の話を聞くこともなく、魂が抜けたように足元をふらつかせながら
はるかちゃんは保健室から去っていった。やはりダメージは相当大きい
みたいだ。まあ俺からいわせてもらえれば、南が鈍感なのが悪い。
うん、圧倒的に悪いね。


「ということで、君が悪いんだよ南くん」


本当はさっき、はるかちゃんに気付かれないように南も一緒に保健室の
中に入っていた。
じっとはるかちゃんの言葉を聞いていた南。呆気に取られたような表情で
何かボソッと呟いた。


「ん、何かいった?」





「本田と付き合ってるつもりでいたのは俺だけだったのか...」





...南の迂闊っぷりを知ってるはずの俺もさすがにこれは開いた口が塞がら
ない。ちゃんとはるかちゃんに好きっていったのか?と聞くと黙り込む南に
呆れながらも、とにかく今ははるかちゃんの後を追え!といって背中を
押すと、南は慌てて走り出した。



その後2人がどうなったかって?

しばらくして南ははるかちゃんと手を繋いで戻ってきた。南のことだから、
きっとなんだかんだと言い訳をしながら本人も気付かないうちに告白してた
んだろう。真っ赤な顔をして向き合っている2人の姿が簡単に思い浮かぶよ。
あ、さっきあまりにも幸せそうな顔してる南を見てムカついたから『彼女が
できました!』って書いた紙をこっそり背中に貼ってやった。今頃教室では
大騒ぎになってるかな。悪いね南、それも俺の親心だ。



これからも、この迂闊な男の行く末を見守っていくとするか。