僕らの紡いだ音!

「こいつらのこと、何も言わずにつれてきて悪かったな。でも、どうしても萌香と一緒に連れていきたい場所があったんだ。だめか?」
そういわれて私は少し考えた。もともと今日はoff。別段予定もないのでついて行っても平気だ。
(何よりもどこに行くのかが気になる。)
そう思うと了承の意を伝えた。
「……大丈夫。取り乱してごめんなさい。」
それを聞いて社長は私を抱き上げた。
「わっ……!」
「じゃあ、移動するか。車用意してあるからお前らも行くぞ。」
「社長、私歩けるよ。」
「いいからこのままでいろ。足に力はいらないんだろ?」
すべてを見透かしたように言われて私は黙った。正直に言うと、今下ろされても立てる気がしない。
(あの人たちに捕まったんだと思った……。)
自分の肉親なはずなのに全くと言っていいほど親子だとか、家族だとかの感情がいまだにわかない。記憶にあるのは、罵声と暴力―。自分の本当の両親なのかと疑問にさえ思う。
『ここで待っていてね。』
その言葉を最後に私は捨てられた。公園に一人でいたことを今でも覚えている。お父さん、お母さんと何度も呼んでいた。でも結局は迎えなんて来なかった。そんな時、泣いている私を見つけてくれたのがシノとシノのお母さんだった。買い物帰りに公園に寄ったらしいが正直羨ましかった。当たり前のようにお母さんと一緒にいるシノのことが―。
「さぁ、ついたぞ。」
そういって車のところまでくると、社長は車の助手席側の窓をたたいた。すると、窓が開いて中からは―
「社長、萌香ちゃんをお姫様抱っこしてあげてんすか?」
軽く言う後藤さんが現れた。なるほど、後藤さんも一緒だったのかとぼんやりと考えた。
「つべこべ言わずに後ろを開けろ。」
「はいはい、萌香ちゃん待っててね~。」
「……。」
相変わらずの軽さに少し昔を思い出していた私にとっては嬉しい感覚だった。少しだけその時は笑ったような気がする。
「萌香ちゃん、扉を閉めるね~。」
「うん。」
いつも通りの返答を返して私はシートにゆったりと座っていた。反対側のドアからはさっきの3人が乗り込んだ。助手席には社長が乗って車は出発した。